裏コードと完全代理・第四回「高級代理と低級代理」

前振り

 おはようございます。お世話になっております。りんろんたです。

 音楽理論があまりにも好きなので、音楽理論を語るときはものすごく言葉数が多くなる癖があります。これまでのところ、このシリーズは1記事あたり約5000文字で書いてたんですが、ここまでで1万5千字くらいあるわけですね。よくもまあそんなに。

 前回書いた通り、今回でようやくこのシリーズの本題に入ります。何かを理解するためには往々にして前提とする知識の量の方が多いものなのですが、本題に入ってしまえばあっさりしたものです。しかしりんろんたは天下一品ではこってり派なので音楽理論もこってりやります。覚悟してください。二郎はアブラマシです。

 家系は硬め濃いめ多めです。

 

 

 なんでんかんでんに行きたいです。

 

musicplanz.org

前回のおさらい

f:id:rinronta:20181111102443p:plain

 前回までの内容を1文でまとめると、「楽音に含まれる第五倍音と第七倍音のトライトーンがハーモニーを導いた結果としてドミナントモーションが生まれ、これが最も収まりのよい進行となる」ということになります。

 今回でようやく本シリーズの本題に入ります。

裏、即ちトライトーン

 いわゆるところの「裏コード」について、これまで内容を踏まえてこってり説明します。いい加減トライトーンという言葉に聞き飽きたと思いますが我慢しましょう。

トライトーンを裏返す

 第一回「ドミナントコードの定義」の内容で、だいたいこんなことを言ってました。

  • トライトーンはひっくり返してもトライトーン
  • ドミナント7thコードはM3とm7のトライトーンをコードトーンに持つ

 というわけで、トライトーンの両音の立場を、「M3をm7に、m7をM3に」という形で立場をひっくり返してあげると同じトライトーンを持つもう一つのドミナント7thコードが存在することになります。これってもしかして…?

f:id:rinronta:20181107175924p:plain

 トライトーンが逆になったので、もうひとつのドミナント7thコードのルートは、元のドミナント7thコードのルートとトライトーンの関係にあることになります。たとえばG7と同じトライトーンを持つドミナント7thコードはD♭7になります。

f:id:rinronta:20181114082121p:plain

 この関係をいわゆるところの「裏コード」というわけです。五度は書いてません。

 この話とも関係するんですが、音楽理論をその身に宿すりんろんたの口にM3がついてて尻にm7がついてることはこれまでの内容で既にご承知のことだと思います。なので、この世には口にm7がついてて尻にM3がついてる「たんろんり」って名前のバケモノが存在してるはずなのです。彼らは私たちとは違い、尻で食べて口から出すのがマナーなのです。今思いつきました。

ドミナントモーションの裏

 コードに裏があるように、コード進行にも裏があります。最強のモーションであるドミナントモーションに匹敵するもう一つのモーションがあるということですね。そういう北斗の拳みたいな設定が音楽理論にもあるわけです。

 はてさて、第二回「ハーモニーの進む先」で、「トライトーンがM3とm7の位置にあることによって、互いに逆の方向へ進む動機が生まれる」ことを説明しました。

f:id:rinronta:20181107033001p:plain

 というわけでG7と同じBとFのトライトーンを持つD♭7も、全く同じ働きによってC△へ進行できることになります。D♭からC、ルートが半音下に進むわけですね。

 

f:id:rinronta:20181114085205p:plain

 この動きを「半音の動き」の意味からクロマチックモーションと呼びます。英語で言ってるだけ。ただし、厳密にはクロマチックモーションそれ自体は半音上進行のものも含まれるので、半音下進行を区別してクロマチックモーション下行といいます。半音上の進行はクロマチックモーション上行といいます。

 というわけで、ある一つのコードが最も説得力を発揮できる進行は2種類あることになります。それがドミナントモーションクロマチックモーションというわけなのですが、これらは同等の強さをもつ進行になっています。

 別の言い方をすると、あるひとつのコードへ進行すると最も説得力を発揮できるコードは2種類あることになります。たとえばC△へドミナントモーションするG7と、クロマチックモーションするD♭7です。ドミナントモーションの裏にはクロマチックモーション(下行)があるのです。

 存在する全てのドミナントモーションとクロマチックモーションを図にしてみました。ルートのみの表記です。

f:id:rinronta:20181114154752p:plain

 実は、りんろんたはここ数年、こういう音楽理論に関する図表の類を作ることを最大の趣味にしています。1日中やっててもマジで飽きないし、寝る前にやらないと落ち着かないし、もしかしたら作曲そのものよりも好きかも。たまにMusicPlanzの先生方とか作曲仲間にこういうのを見せると、決まって神妙な顔をされます。

余談:クロマチックスケール上行について

 ここでは触れていないクロマチックモーション上行ですが、これはドミナント7thコードのルートを省略したディミニッシュ系コード、およびそれと関連するより大きな範囲のマイナー系コードを想定すれば、ドミナントモーションとクロマチックモーション下行の両方の性質を持ち合わせていると言えます。今後、単独テーマの記事を書くかもしれません。書かないかもしれない。

裏ルート

 第三回「ドミナントモーションという現象」までの内容で「ドミナントモーションはルートの四度進行のみで十分成り立つ」ことを主張してきたわけですが、これはハーモニーの中で最も大きな音量で鳴る最低音に現れる倍音上のトライトーンがハーモニー全体の行き先に強く影響しているためです。

 というわけで、トライトーンの関係にある2音がベースとなるハーモニーの進む先は、同じ倍音上のトライトーンに導かれるため、収まる先も同じなのですな

 たとえば、Aベースのハーモニーの進む先は、Aの第五倍音C♯と第七倍音Gの倍音上のトライトーンに支配されます。

f:id:rinronta:20181115131348p:plain

 そんでもって、その裏であるE♭ベースのハーモニーの進む先についても同様に、E♭の第五倍音Gと第七倍音D♭の倍音上のトライトーンに支配されてるわけです。

f:id:rinronta:20181115131229p:plain

 Aの倍音トライトーンは「C♯とG」、E♭の倍音トライトーンは「GとD♭」。どっちも共通してます。
 平均律上の周波数と倍音上の周波数とはズレがあるんですが、どっちもトライトーンであることには変わりがないし、トライトーンがハーモニーを導く先も一緒なのですな。

 たとえばアイドルだって人間であることには変わりないので恋愛して結婚したりするわけだし、ラーメン二郎で出てくるアレだってラーメンであることには変わりがないので麺を噛んで食べます。そこを否定しちゃうから「アイドルはウンコしない」とか「二郎は飲み物」みたいな意味不明な電波を受信しちゃう人間が現れるんです(怒)!

裏コードの定義の中心部分

 というわけで「ルートが裏(トライトーン)にあるドミナント7thコード」ってのが裏コードの定義ということになります。

 しかし、第二回の記事でドミナントモーションの広義と狭義を両方とも示しましたが、同様に裏コードについても定義の広さをちゃんと確認する必要があるのだと思います。

広義の裏コード:全てのコードの裏にある全てのコード

狭義の裏コード:ドミナント7thの裏にあるドミナント7th

(最も狭義の裏コード:V7にとっての♭II7)

 一般的には、「裏コード」といえば狭義のものを指す場合の方が多く、狭義のものほど裏コードとしての性質は強いです。しかし、広義の裏コードを指すこともあるわけです。

 例えばkey of Cのダイアトニックコードについて裏を取るとこういうことになります。

f:id:rinronta:20181119193358p:plain

 厳密に「key of Cにおける裏コードは何か」という話題では、ダイアトニックコードにおいてドミナント7thコードと呼べるのはG7のみなので、このうちD♭7が唯一の裏コードになります。最も狭義の裏コードですね。

 一方、広義の裏コードという話題では、C△7の裏コードでF♯7(G♭7)F♯φ7(G♭φ7)が、Em7の裏コードとしてB♭7B♭△7が、G7の裏コードとしてD♭△7が挙げられたりするわけです。ルートが裏でありさえすれば裏コードと呼ぶわけですね。ちなみにりんろんたは音楽理論が好きな人でありさえすれば友達と呼んでいます。

代理

 第一回の冒頭で「裏コードこそが真の代理コードである」みたいなことを言ってましたが、これをもうちょっと詳しく説明します。

 そもそも音楽理論における「代理」が何を意味するのかっていうと

代理の置換:あるコードと代理となるコードを置き換えること
代理の進行:あるコードから代理となるコードに進行すること

 この二つがサウンドに変化をさほど与えずに可能であることです。

 代理コードと代理元コードが同じ性質をもっているのであれば、代理元コードのある場所に代理コードを置き換えることもできるし、代理元コードから代理コードに進行することもできるわけです。音楽理論における代理というのは、すなわち「置換と進行が同時選択可能」と一言で説明できます。

 

真の代理:高級代理

 それでですね、私の言う「真の代理」っていうのは、その代理元コードと代理コードの立場が全く同じものを指すんですよ。すなわち、お互いがお互いの代理となることができるわけです。すなわち「相互の置換と進行が同時選択可能」です。

 αとβというコードがあったとして、両者の立場が全く同じであるならば、「αからβへの置換・進行」と「βからαへの置換・進行」のサウンド変化の度合いが全く同じになることを意味します。対称性があるんですね。

 逆に、たとえば「αはβの代理であり、βはαの代理ではない」というように立場が異なる関係であれば、すなわち「αからβへの置換・進行」よりも「βからαへの置換・進行」の方が、サウンド変化の度合いが大きくなることを意味します。そのために対称性のない一方向の代理になってしまうわけです。

 MusicPlanzの新標準音楽理論においては対称性のある代理を「高級代理」、相互性のない代理を「低級代理」と厳密に区別しています。で、単に「代理コード」と言った場合には普通は高級代理による代理コードの方を指します。

高級代理:相互の置換と進行が同時選択可能

低級代理:一方向の置換と進行が同時選択可能

 これから両者の具体的な違いについて説明します。

高級代理

 コードトーン上あるいは倍音上のトライトーンの共通性に基づく代理であり、相互性があります。

 「ハーモニーの導かれる先が同じである」ことが、お互いのお互いに対する代理を成り立たせています。ここまでの説明でご理解していただけると思いますが、端的に言えば「裏コードによる代理」を高級代理と言います。

 ちなみに「裏」という名前で呼んでいるために「表」がありそうと思いがちですが、ダイアトニックコードを想定しない限り、高級代理には裏も表もありません。ただし、「ダイアトニックコードの裏コードが何か」っていう話題で、ダイアトニックコードの方を便宜的に「表コード」と呼ぶ場合ならあります。

 「敵」じゃない人間をなんて呼べばいいか。「味方」ですね。でもこれは味方から見た視点の話。しかし、敵でも味方でもない外部の人から見たらお互いに喧嘩してるから「どっちも敵」なのです!みたいな話なんです(?)。

低級代理

 コードトーンの共通性に基づく代理であり、相互性がありません。

 「主要なコード」を想定し、それらのコードと共通なコードトーンがあるコードを「副次コード」と分類することによって生まれる代理コードです。

 低級代理の考え方では、「主要コードから副次コードへの代理」は成り立っても、「副次コードから主要コードへの代理」は成り立ちません。

 key of Cでいえば、C△7を「トニック」、F△7を「サブドミナント」、G7を「ドミナント」と呼び、それらを「主要コード」と呼ぶわけですが、これらとの構成音の類似性から、Am7・Em7などを「代理トニック」、Dm7・Bφ7などを「代理サブドミナント」、Em7・Bφ7などを「代理ドミナント」って分類するわけですね。

 他にも、借用和音や変位和音による代理コードもありますが、本シリーズの内容とは無関係のため省きます。

 しかし、これらの「低級代理コード」は、ルートがトライトーン関係にはないために、ハーモニーの導かれる先にもズレがあり、主要コードからの一方向の代理しか成り立たなくなっているのです。「主従関係」があるのですね。そのために低級代理と呼ばれます。

高級代理と低級代理の根本的な違い

 また、高級代理は物理現象と心理現象という不変の観測的事実に基づくものであるのに対して、低級代理の考え方による「代理コード」の分類は、人間の恣意的な判断の要素が強めです。ようするに低級代理における代理コードの線引きって、時代の流れや偉い人の声の大きさによって変わる不確実なルールによって決められる要素が多いんですよ。

 それがアートとしての音楽だと言われればそれまでなんですが、私りんろんたとしては音楽理論ってそういうもんじゃねーだろって思います。IV△7にはトニックであるはずのIの音とVIの音が含まれているわけですが、それをトニックと呼びますか?呼びません。なぜならIV△7はサブドミナントだからです。I△7はVの音とVIIの音を持ちますがトニックです。

 構成音の共通性に基づいてコードの性質を分析してはいけないってわけじゃないですが、それだけじゃコード本来の性質には到底辿り着けないんですよ。それよりも、「ハーモニーがどのように導かれているか」という観測的事実を、構成音の共通性よりも重要視すべきだと思います。

 それが音楽理論の本来あるべき姿なのではないかと思うのですが、一般に流布している音楽理論の書籍なんかでは、この視点を軽視してるように思います。

 音楽理論はあくまで科学であるべきです。実はそれがこのシリーズで一番主張したかったことだったりします。でも、作曲ってのは科学に抗うものであるべきだとも思っています。敵をしっかり見定めてこその勝負なのです。

まとめ

  ここまでで「裏コード・代理コード」の説明を終えたわけですが、次回は「対応スケールとテンション」と銘打って、高級代理をより「完全な代理」として成り立たせるための方法論について説明します!

 これを読んでる人はMusicPlanzのテキストを一通り読んでることと思うんですけど、これを踏まえてMusicPlanzテキストの音楽理論2の第3回「代理コード」を改めて読んで欲しいんですよ!私の文章よりも格段シンプルに説明されてるので!

musicplanz.org